第2章 三角関数

 私たちが日常使用している電気には,直流と交流がある。その交流は,電圧や電流の値が正弦波形を描いて周期的に変化するもので,変圧器を用いて電圧の値を容易に変換することができ,長距離送電のために都合が良かったことから,広く広まった。その他にも,電気現象の中には時間や場所に関して周期的に変化する波や振動がよく現れる。(47, 48ページの例1, 2参照)そのような現象を的確に表す数学の「言葉」の一つが三角関数である。三角関数は物理現象との対応も理解しやすく,是非とも使いこなせるようになって欲しい「言葉」の一つである。

2.1 三角関数の定義

 直角三角形のそれぞれの辺の長さの比を用いて三角比が定義される。

 左図の直角三角形ABCにおいて斜辺ACと頂点Aに対する辺BCとの比BC/ACを考える。三角形の相似性により,この比の値は,直角三角形の大きさが変わっても∠BAC (= θ)の大きさが変わらなければ,不変である。すなわち,図においてBC/AC = B'C'/AC'であり,直角三角形の斜辺と1つの頂点Aに対する辺の比は,頂角θの大きさによって定まっている。

 この比の値をθの正弦あるいはサインといい,sinθ と書く。

以上述べたことは,他の辺の比についても同様に成立している。AB/ACをθの余弦あるいはコサインといい,cosθと書く。

また,BC/ABをθの正接あるいはタンジェントといい,tanθと書く。

 正弦,余弦,正接をまとめて,三角比という。

 1つの角θを与えた場合,その三角比としてのサインやコサイン等の値は,ほとんどの場合単純な数値(有理数や簡単な無理数やその組み合わせ)としては求まらない。三角比の具体的な数値を必要とするときは,その近似値を扱うしかない。近似値については,付録の三角関数表を見よ。また近似値の求め方については微分の応用として解析学で学ぶ。しかしながら,θが 0°,30°,45°,60°,90° などの特別な場合については単純に求まる。これらの三角比の値は,基本的な値として非常に重要である。いつでも三角形を描いてまちがいなく値が出せるようになっておく必要がある。

問1 次の表の空欄に適当な値を入れよ。

 三角比が角θを与えたときに定まる値ならば,三角比は角θの関数と見なすことができる。しかし上の定義のままでは不十分である。なぜなら,負の角をもつ直角三角形や鈍角をもつ直角三角形などは考えられないので,それらの角に対しては,関数値が定義されないことになる。すなわち,このままでは定義域が0°から90°までの非常にせまい範囲の関数しか考えられない。また角の測り方も度(°)のままでは,後々多くの不便が出てくる。

 ここでは,角の測り方はそのままとし,まず負の角や鈍角に対しても値が定義できるように三角比を拡張して三角関数を定義する。

 左図のように半径1の円を描き,中心を通る1本の直線を引く。図の点Aを始点とし,この円周上を動く点Pを考え,∠AOP = θとおく。Pが円周上を反時計回りに動くときは,θを正として測り,時計回りに動くときは負として測る。Pからこの直線に垂線PQを下し,△OPQを考え,sinθ = PQと定義する。ただし,Pが直線より上半分の円周上にあるときは,PQは正として測り,下半分の円周上にあるときは負として測る。このとき,0 ≤ θ ≤ 90 ° ならば,ここで定義したsin θ は先に定義した三角比と一致する。θ = -30°のときは,この定義によりsin(-30°) = -1/2となり,θ = 120°のときも同様に考えてsin(120°) = となる。Pがこの円周を一周し,更に45°回転したときは,θ = 405°と考え,sin(405°) = sin(45°) = となる。

 cosθについては,図においてcosθ = OQと定義する。ただし,OQはPが図の円周上の右半分にあるときは正として測り,左半分にあるときは負として測る。

 tanθについては,tanθ = PQ/OQと定義する。ただしPQ, OQの正,負についてはsinθ, cosθの場合と同様である。また,tanθは,左図においてPQ/OQ = AR/OAであることより,tanθ = AR(∵OA = 1)とも表される。これらの定義に従えば,cos(120°) = -1/2,tan(255°) = 1のように,頂角θを持つ直角三角形を描くことができないような角θに対してもsinθ, cosθ, tanθのそれぞれの値が定まる。

 以上のように一般化された三角比の値の符号については,下図のように憶えておけばよい。

問2 次の表の空欄に適当な値を入れよ。

 一般化された三角比の値を用いて定義されるこれらθの関数をθの三角関数という。通常三角関数を考えるときには,角は度(°)ではなく別の測り方をするのであるが,それについては次の節で説明する。